

懐かしい学び舎の空気を、全身に取り込むように深く呼吸した後、まっすぐ前を見つめ、寺島しのぶさんがつぶやいた一言。
青春時代の記憶の引き出しをひとつ、ひとつ開けていきながら、「あの頃は、想像もしてなかったよね…」。
今年2月、仏人アートディレクターのローラン・グナシアさんと国際結婚。翌日にハネムーンを控え、たおやかな表情で“幸福な時間”を語ってくれた。

私は小学校から大学まで青山学院だったから、自宅のある広尾から毎日ずっと歩いて通ってたんです。ほんと、懐かしいなぁ。
初恋も何もココですからね。男女共学だから、映画『セント・エルモス・ファイヤー』状態ですよ。もう友達だか、恋人だかだんだんわからなくなる。でも、男女の友情っていいなぁって思うんです。今でも皆としょっちゅう遊びに行くし、LOVE抜きでなんでも話せる友達っていいですよ。
学校帰り、デートは『SELAN』に行くことが多かったですね。一番の思い出は、小学校6年生の時に大好きだった同級生の男の子が誘ってくれた時のこと。私が「フレッシュオレンジジュース」を頼んだら、当時700円もしたから、コップを1個もらって2人で分けたの! スパゲッティも食べたかったのに。子供ながらにこいつダサイなって思った(笑)。今でも『SELAN』に行くと、いつも思い出しますね。

校内に思い出の場所はたくさんありますね。小学校の時、バレンタインデーに好きな男の子を屋上に呼び出してチョコを渡したり、あと部室ね! 部室はドキドキするよね。
学生時代は部活に専念してましたね。中学はバレーボール部。高校はハンドボール部。夏は他校で試合をしたり遠征に行ったりね。青学はハンドボール部が強くて人気だったんですよ。先輩には尾崎豊さんがいて、この礼拝堂の隣にある部室の壁には、直筆が残されていたんですよ。
私は、女子の後輩から好かれるタイプでしたね。私、今でもそうなの、男の人より、女性のファンのほうが多いんです。

表情変わりました? 幸せオーラ出てます? そうですかぁ?じゃあ良かった。自分の中では変わっていない気がするんですけど、他の人は全員が全員、変わったって言いますね。なんでだろう。精神的に安定しているからかもしれないですね。
2人の関係は結婚しても何も変わっていないんですよ。自分が奥さんらしいことをしているかっていったら全然そうじゃないし。
でも、この結婚は大きかったと思うんですよ、いろいろと。結婚してから家族と話す時間も多くなりましたしね。ウチは役者同士の集まりだから、家庭的な話はしなかったんですが、ローランが加わったことで単純に食事をして会話を楽しむようになった。それが結構大きいかもしれない。

結婚して、趣味とかは変わらないけど、行く場所が変わったかな。
ローランの仕事の関係で、美術館のエキシビションや青山の『トーキョーワンダーサイト』(以下TWS)などへ一緒に行くことが多くなりました。
彼にアートを説明してもらうと「そういう見方があるのか、なるほどね」って思う。でも、未だに私は、何を表現しているかっていう解釈は無理ですね。自分がクリエイターだからかもしれないですけど。彼は、なかなかいい眼を持っているなぁと思っているので、話を聞くのは好きです。
海外のアーティストに滞在制作の場を提供してくれる『TWS』や、アーティストの支援をしている『アニエスべー』のようなブランドとか、青山はアートに関して理解がある街だなと思います。もっともっと、街にアートが出て行ったらいいなぁって思うんですよね。そろそろ日本人がコンテンポラリーアートを認める時代がきてもいいんじゃないかな。

青山は隠れ家BARがあったりするのも好きですね。『ル・バロン・ド・パリ』が出来たでしょ。パリが本店だからフランス人がいっぱい集まっているので、なんだかんだ連れていかれるんですよ。面白い場所は逆に教えてもらっていますね。ローランのほうが東京を知っていると思います。
私は、ほんと人嫌いだったし、レセプションや誰かの集まりに行くことはほとんどなかったけど、今は毎晩のようにホームパーティーへ行ったり、結婚式以来、我が家にもずっと入れ代わりで彼の友達が泊まりに来ていたりと、大変なんです。でも、ドレスコードがあっておしゃれをしたり、それはそれで楽しんでますけどね。
弟は、そんな私の行動にかなりびっくりしていて、「人って変わるもんだな〜」って、この間しみじみ言われちゃいました。そのうち嫌になるかもしれないですけど(笑)。
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撮影協力:青山学院大学
Stylist 島津由行 yoshiyuki shimazu
Hair&Make up キクチタダシ kikuchi tadashi
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彼と公園を散歩したり、海に行ったり、自然の中にいることが多くなりましたね。なんてことのない時間なんですけど、出会ってから「のんびりするのもいいなぁ」って。それって大事なことだなって気づいたんです。
今までの走り続けてきた時間とものすごくギャップがあって、たまにノッキングを起こす時もあるんだけど、仕事よりこっちのほうが大事かなって思うようになってきた。
だから、やたらめったらの仕事はもう出来ないかもしれないですね。20代の頃はやたらめったら仕事がやりたかったんですよ。どんな役でもやりたーいって思ってたし、ワーカホリックみたいにスケジュール帳の空白が恐くって。でも、そんなことをやっていたら、すり減っちゃうだけだなって思うようになった。もっと充電して今まで以上の力を出せるようにしよう。自分を大切にしたほうがもっとクオリティの高いものが出来るんじゃないかって。緩んでる時間があると、これだけ緩んだんだから「次、頑張ろう」と思えるようになるんですよね。
”待てる時間“を作れるかどうかっていうのも、勝負で賭けだと思うんですよね。今年は必然的に充電の年になったけど、「人生のうちのたった1年じゃん」って思ってます。

そうは言っても、仕事がほんとに大好きだから、やらないと変になっていっちゃいそう。”表現すること“好きですね。だって、他の人に変身できるのって役者しか出来ない。人生のうちにいろんな女性に出会えるわけだし、役を通して学ぶこともある。結構楽しいですよ、この仕事。
たぶん、生まれた時から「役者になる」って決めてた。そういう家庭環境にあったんでしょうね。実現できたのは、とっても遅かったんですけど、それも必然的な遠回りだったんだろうな。
大学で専攻した児童心理学は、母親役で子役と演技をする時のためになっているし、部活で培った体力や先輩後輩のあり方とか人間的な部分で、大学卒業まできちんと学んで、すごく良かったなって今になって思う。
希望することは大事なことだけど、結局、人生って決まってると思う。だから注目されている時もあれば、地の中を這ってじっとりとしている時もある。人間って死ぬまでに一回は、パーンって花が咲くものなのかもしれない。それは小学校の時かもしれないし、死ぬ直前かもしれないけど、死ぬ時は±0になっている感じがしている。
私の場合は、やりたかった映画で賞をたくさんいただいて、人が私を見る眼が全部変わった。賞をとるとこんなに優しくしてもらえるんだとか、そういうこともあったし。だからといって、過去に賞をとったから何?じゃないですか。昔のことを言われ続けるのは嫌だし、役者として先に進まなくちゃいけない。結婚して、また人の眼が変わるだろうし、役も全然違うものが来るかもしれない。もしかしたら仕事が全然来ないかもしれない。でも、「今が一番楽しいな」って思える環境だったらいいかなぁーって。
今朝、昨日のパーティーで出たすごい量のゴミを出していてそう思ったんですよね。「あ、これ楽しいな」って。

「前しか向いていない人」がいいな。
いくつになっても日々生まれ変わって、発展している人が好き。先輩の役者さんとか素敵な人を見ていると、やっぱり前向き。私もそういう人になりたい。生きている限り、イキイキとね。

1972年12月28日、京都府京都市出身。青山学院大学文学部教育学科卒業。父は歌舞伎役者の尾上菊五郎、母は女優の富司純子、弟は尾上菊之助という役者ファミリーに生まれ、大学在学中より舞台、テレビドラマを中心に活躍。2003年に公開された映画「赤目四十八瀧心中未遂」「ヴァイブレータ」で国内外多くの映画賞を授賞。2007年、映画「愛の流刑地」。2007年8月17日〜9月30日、「ヴェニスの商人」(演出:グレゴリー・ドーラン)が東京・天王洲で公演予定。