Aoyama Style

コラム

安西水丸の青山日記 12

【○月□日】

 青山通りで展開する「デザインアワード・2005」も無事に終了した。今年の審査員長は日比野克彦氏で、彼のカリスマ性もあってか、なかなかユニークな作品が集まった。
  残念だったのは、出張が前々から決まっており、授賞式には出られなかったことと、もう一つ、今年もぼくが選んだ作品がほとんど入選しなかったことだ。受賞作品を見ると、へえ、こんなものが、といった作品が受賞していた。
「安西なあ、カレーとラーメンと女だけは、それぞれ好みがあるんだよ。ぼくには何とも言えないな」
  ぼくが大学(日芸)で講師をしていた時、教授に誘われて入った居酒屋で、少しお腹が空いていたのでメニューにあったカレーを食べようとして、教授に言われた言葉だ。この店は教授の行きつけの店で、そんなわけで、ここのカレーの味はどうなんでしょうか、と訊いてみたところ、返ってきたのがこの言葉だったのだ。名文句である。そういった点で考えてみると、デザインにもそれぞれの好みがあるのだろう。例年のことながら、ぼくの選ぶ作品は、 多くの審査員には人気がないようである。果たしてどちらが正しいのか……。
  ところで作品が青山通りに展示されていた時、ぼくはタクシーでこの通りを走った。
「運転手さん、今、デザインアワードっていうのをやっていましてね。ほら、あそこにさげてあるのが作品なんですよ」
  ぼくはドライバーに言った。
「えっ、何処ですか?」
「ほら、あそこ」
「ああ、なるほど、なかなか面白いですねえ」
  いいドライバーであった。実のところ、青山通りは、まだプラタナスの葉が多く風にゆれており、作品はやや見えにくかった。
  まあそんなことがありました。皆様、お疲れさまでした。来年も頑張りましょう。

【○月□日】

 神宮前三丁目で、「テイト・コーポレーション」という会社を経営している又平享氏とはちょっとした縁(話せば長くなるのではぶく)で親しくなった。
  ある時道で、近く雑誌を立ち上げたいのでアート・ディレクターになる人を紹介して欲しいと言われ「いつでも」と即答した。
  数日後、その雑誌がニューヨークで創刊一一九年の歴史を持つ「PLAYBILL」の日本版だと知って驚いた。驚いたというか、この雑誌にはさまざまな思い出があったのだ。
  ぼくがニューヨークへ渡ったのは一九六九年で、幸運にもすぐに仕事が見つかり、そのまま二年間マンハッタンで暮らすことになった。
  職場(デザインスタジオ)は42ストリートの五番街と六番街(アベニュー・オブ・アメリカスとも言う)の間にあった。ビルの名前はブライアント・パーク・ビル(目の前にブライアント・パークがある)といった。
  この職場のあるビルから少し西へ歩くと、すぐにタイムズ・スクエアで、ブロードウェイが走り、あちこちにミュージカルなどを上演している劇場があった。劇場へ行くと置いてあるのが「PLAYBILL」で、これは無料で手に入れることができた。因みに「PLAYBILL」にはシアター・ガイドなどといった意味がある。
  ぼくは当時二十七歳で、働いてはいたものの不法就労者であった。当然のように、金持ちであるはずがない。そんなこともあって無料で手に入る「PLAYBILL」は毎月の楽しみの一つだった。
  この「PLAYBILL」は、歴史もあることから、古いものはそうとうな値がついているらしい。そういえば、当時、ニューヨークの古書店などに山のように積まれていたことなどが記憶にある。ぼくがいた頃は、「ヘアー」とか、舞台の男女がすべて全裸で演ずる「オー・カルカッタ」などが話題になっていた。もちろん「オー・カルカッタ」のポスターが表紙になっている「PLAYBILL」も持っている。
  そんなこんなで、アートディレクターはぼくが引き受けさせていただくことになった。
  日本版の創刊は来年(二〇〇六)の四月を予定している。乞う、御期待と書いておきたい。

【○月□日】

 北青山の袋小路にあるギャラリー「ダズル」で開いた五人展も無事に「終わった。メンバーはぼくと、信濃八太郎、田沢健、三井ヤスシ、山崎杉夫で、彼らはぼくが朝日カルチャーセンター横浜のイラストレーション教室で講師をしていた時の生徒である。それぞれ独特な画風を持ってはいるものの、まだしっかりとした仕事にはついていない(ぼちぼちとはやっているが)。励ます意味もあって、よし、みんなで展覧会をしようかと企画したところ、彼らの喜び様は凄まじかった。ぼくはどうも変なところがあって、相手にあまり喜ばれると気味悪くなるところがある。今回もまさにそうで、彼らの異様な喜びについていけず、ついにギャラリーには足が運べなかった(オープニングにはちょっと顔を出したが)。まあなんとか展覧会も終わり、絵もそこそこ買っていただいた。異様な喜びには困ったが、今後彼らが大活躍してくれることを考えれば、いい展覧会ができたとおもっている。ここでも、乞う、御期待と書いておきたい。

【○月□日】

 以前、南青山にあった福井会館が、リニューアルして、その敷地にいろいろとお洒落な店ができた。うれしいのは、以前からあった大きなクスノキがそのまま健在なことだ。
  この敷地内の一番奥の左手が福井県の物産館で、右手に「ありそ亭」という日本料理の店があってぼくはよく出かけている。日本酒の好きなぼくにとって、ここで飲む「黒龍」は格別である(時々メニューにある酒がなかったりするのは大難点だが)。福井県というのは富山県と似て、どちらかというと地味な県だが、意外に(実にといった方が正しいですね)
いい日本酒があり、魚が美味しい。その逆が石川県や京都府だろうか(まあいいか)。
「ありそ亭」で最後に食べるのが越前蕎麦の「おろし蕎麦」だ。おろした辛み大根で食べる蕎麦はすっきりと美味しい。因みに「越前蕎麦」の名は、昭和天皇の口から出たお言葉からきているのだという。「下にいい」である。

Profile

あんざい・みずまる
イラストレーター。1942年東京生まれ。日本大学芸術学部美術学科造形卒業。電通、NYのデザインスタジオ、平凡社でADを勤めた後、フリーのイラストレーターに。現在は事務所を神宮前3丁目に構える。小説やエッセイなど文章も人気が高く、「アマリリス」「手のひらトークン」「バードの妹」「メロンが食べたい」「魚心なくとも水心」「美味しいか恋しいか」など著書多数。

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