
【○月□日】
墓地下(南青山三丁目)にある「大滝」で寿司を食べていたところ、岡本敏子さんが亡くなったと言われ驚いた。ほんとに驚いた。あんなにお元気だったし、昨年の「青山デザインアワード」の受賞式ではお隣りの席だったのであれこれお話させていただいた。この人がいる限りは、「青山デザインアワード」は安泰だなとおもっていただけにとても残念でならない。残念でならないけれど、亡くなられてしまった今ではもうどうにもならない。
ご冥福をお祈りいたします(岡本敏子さんの特集ページにも岡本敏子さんについて書いています。)
【○月□日】
スーパーマーケットの紀ノ国屋の仮店舗で食材を物色していたら、いい感じのワサビが売っていたので二本買った。
以前からワサビ漬けを作ってみたかったので、〆張鶴(新潟県村上市宮尾酒造)でいただいた酒糟を使って挑戦してみることにした。
まずワサビを二本細く刻んで、それを適量の酒糟と混ぜ、味醂を大さじ二杯ほど入れ、さらに隠し味程度に醤油を小さじ一杯ほど入れ手でかき混ぜる。そこにチューブ入り練りワサビをぎゅうーっと入れさらによくかき混ぜる。鼻につーんとくるのが好きな人は、このチューブ入り練りワサビを一本くらい使ってもいいだろう。
翌朝食べてみたのだが、これが美味いの美味くないのって(この場合先の言葉が正しい)、市販のワサビ漬けなど問題にならないほどだった。箱詰めにして「水丸印ワサビ漬け」として注文を取ろうとおもったりもした。
ここでポイント。美味しいワサビ漬けはいい酒糟を使うことです。(もちろんいいワサビを使うことも条件でしょうが。)ぼくの場合「〆張鶴」という超一級の蔵元製の酒糟を使ったのが成功の原因だとおもっている。
【○月□日】
仕事場で朝方まで仕事をし、八時すぎの成田エクスプレスで成田国際空港へと向った。今回の出張はニューヨーク、ボストンだった。
ニューヨークでは二日すごし、ペンステーションからアムトラックでボストンへと向った。因に、ニューヨークでは「エル・ファロ」(グリニッジ・ビレッジ)のパエリヤと、「バルーチス」(ソーホー)のシーフードミックスのカレー、「ハンバット」(35ストリートの五番街と六番街の間)の豆腐チゲが美味しいです。
ボストンではパーク・プラザホテルに入った(ニューヨークでのホテルはイロクォイズで、ここはかのジェームス・ディーンの常宿だったところ)。その日はウインストンホテル内にある「OSUSHI」で寿司を食べたが、ここはけたたましく不味かった。まあボストンで美味しい寿司を食べようなんておもう方がおかしいのかもしれない。ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント(略してWASP)の本拠地も、寿司の味はわからないらしい。
ボストンではハーバード大学、マサチューセッツ工科大学、ブリジストン美術館などを取材した。ゴーギャンの大作「われわれは何処から来たのか?われわれは何か?われわれは何処へ行くのか?」を見ることができたのはうれしかった。昨年タヒチに行った時からずっと気になっていた作品だった。
【○月□日】
ボストンでの仕事中、一日休みをもらってケープコッド(タラの岬という意味)まで出かけてみた。ヘンリー・デイヴィッド・ソローの「コッド岬」を読んでから一度行ってみたいとおもっていた。
ボストンのサウスステーションからバスでケープコッド最大の町ハイアニスへ出て、そこからタクシーでヤーマスに行きモーテルに一泊、翌日モーテルからタクシーでケープコッドの釣り針のような最先端プロヴィンスタウンまで行った。この辺の海ではよく鯨が見られるらしいが、ぼくがいる間はやってこなかった。モーテルからプロヴィンスタウンまでのタクシードライバーはボストン・レッドソックスのキャップをかぶっており、訊いてみると、どうして、「イヤー」という返事だった。何を隠そう実はぼくも大リーグではボストン・レッドソックスのファンなのだ。すっかり意気投合してしまい盛り上った。タクシー代を50ドルも安くしてくれた。いい奴だったなあ。
ケープコッドには、サンドイッチ、デニス、ハイアニス、ヤーマス、チャサムといった古くていい町がある。残念ながらぼくは車のライセンスがないので、バスやタクシーでしか動くことができず、その点が残念だった。
ヤーマスのモーテルの女主人は映画「ミザリー」に出たキャシー・ベイツに似ていたのではじめ恐かったが、実にいい人だった。人は顔で決めつけてはいけない。
ケープコッドは、ケビン・コスナー主演の「メッセージ・イン・ア・ボトル」の舞台にもなっているので興味があったら見てください。日本人には一人も会わなかったが、ゲイのカップルはあちこちで見かける町だった。
【○月□日】
今年もラッキョウが出る季節になった。さっそくピーコックへ行き、今年の分を漬けることにした。泥つきのラッキョウを買ってきてよく水洗いして甘酢に漬けた。大きなガラスびん三本に漬けた。ラッキョウは甘酢の味がポイントで、酢を鍋に入れ沸騰させ、蜂蜜を加えて味を整えていく。甘すぎてもまずいし、酢っぱすぎても困る。このあたりは作り手の舌のセンスだろう。イラストレーションでも音楽でも小説でもすべてにいえることだ。
まあそんなわけで今年のラッキョウは一安心、これでまた美味しいカレーが食べられるというわけだ。それにしても、忙しい忙しいといいながら何をやっているんだろうなとおもう今日このごろである。
【○月□日】
VANの創業者、石津謙介氏が亡くなられた。何度かお会いして話をしたことがあるが、九十三歳で亡くなられたという。そんなお年とはとてもおもえなかった。考えてみれば、IVYに接したのもVANのおかげだった。
石津さんの御冥福をお祈りします。

あんざい・みずまる
イラストレーター。1942年東京生まれ。日本大学芸術学部美術学科造形卒業。電通、NYのデザインスタジオ、平凡社でADを勤めた後、フリーのイラストレーターに。現在は事務所を神宮前3丁目に構える。小説やエッセイなど文章も人気が高く、「アマリリス」「手のひらトークン」「バードの妹」「メロンが食べたい」「魚心なくとも水心」「美味しいか恋しいか」など著書多数。